ベルリンの音楽生活

177.昭和4年3月27日1  クロイツァー先生の演奏を聴いて1

3月27日 久しぶりにクロイツァー先生の独奏会を聴きました。 先生の奏法は全く独特でしょう。殊に音色の点では何人の追従を許しません。毎日お稽古をしていただいても、その妙音の出しかたはわかりません。コハンスキー先生、笈田氏、高折氏、いずれの方にの…

178. 昭和4年3月27日2  クロイツァー先生の演奏を聴いて2 クロイツァー先生の演奏には無理がない。

(続き) (クロイツァー)先生の演奏には無理がないのです。某氏大家の言われる通り、自然そのものです。ただ、大家になると我々共のような演奏法とは違ってある特別なる拍子の自由ということに重きを置かれますから、どうかすると思いもよらないところに拍…

179. 昭和4年3月27日3  クロイツァー先生の演奏を聴いて3「妙技に入るとその瞬間は我を忘れます。演奏者も聴衆も一つになります。そこに初めてその演奏の効果が完全に示されることになります。」

(続き) 話は逸れましたが、また、ピアノの続きで、今一つ感じた事は、大曲の全体の統一という事。これは先生ばかりではなく、誰にしてもなかなか難しいことでしょう。 しかし先生はあのカーナバルの(中の人注:シューマン作曲謝肉祭Op.9)大曲をあたかも…

180. 昭和4年3月27日4  クロイツァー先生の演奏を聴いて4「クロイツァー先生は演奏と教授が両立しているので、ベルリンでは第一流です。」

(続き) 自分などは悲しいかな、芸術家としての必要条件が何一つなく、全く恥ずかしくなります。技術は勿論のこと、人格はゼロときているので、これからも将来が恐ろしくなります。いくら飾ってもゼロはゼロですから、最早何事も断念したくなります。仕方が…

182. 昭和4年4月14日2 すみ様2「同僚の大塚淳先生がベルリンにやってくる!」「井口秋子氏の思い出」「弘田龍太郎氏、木岡英三郎氏、武岡鶴代氏、細川碧氏のこと」

4.大塚先生のご洋行はかなり早く知れました。細川君も以前から洋行のことは私に言っていました。 ベルリンも急に賑やかになるので喜んでいます。 私も夢通りに長くなることを希望してしましたが、(中の人注:規矩士の留学は2か年の予定だったが、規矩士自…

189.昭和4年4月14日9すみ様9 「アンピコをお聴きください」

14.どなたかアンピコ(中の人注:なんのことかわからない)をお持ちとのこと、たくさんにお聴きください。私も帰ったならば聴かせていただきましょう。 (中の人ツッコミ) アンピコって何?中の人はわからないです。しかし音楽雑誌「ショパン2024年6月号」…

191.昭和4年5月19日1すみ様1 「期間が短いのでドイツ語は諦めました」「蝶々夫人を見ました」

5月19日「すみ様」 1.その後風邪もなく、毎日丈夫です。だいぶ暖かくなりました。来伯1年ですが、今頃はどうも淋しいようです。誰でもそうのように言っていました。誰かいつでも親しい方が傍にいたら、と思うことが何度もあります。 勉強の多忙のため、交…

207.昭和4年6月23日8 すみ様4 ベヒシュタインピアノ

9.ベルリンでピアノを自分が買う時は内地の半分ですから、驚きます。多分、新しいピアノでも内地でお求めになったての価格でこちらで相当のものが買えるだろうと思います。万一、私が持っていくとなると、無税ですから。(その他の点も皆、特別扱い) 内地…

206.昭和4年7月14日A-6 すみ様 「井口くんから手紙をもらった」「リャプノフをやった!」

22.(曲を)そうでなくてもやれるときはたくさんにやっておくと良いでしょう。演奏はどれだけ力がつくか知れませんから。練習の曲は何でも上等。別に誰の曲を一定する必要はありません。私などはこちらでも何でもやっています。 23.先々月あたりですか、井…

207.昭和4年7月14日A-7 すみ様 Bechstein moorを見ました。

24.近頃はベヒシュタインのフリューゲル(グランドピアノ)はみな、タッチが軽くなりました。 ベルリンの本店には鍵盤の2段の新品がありますが、これはBechstein moorと呼ばれています。先日も一寸用事があって、ベヒシュタイン会社に参り、一寸触ってみま…