昭和3年5月
「5月6日 たなかすみこ(旧姓黒澤すみ)宛 相変わらず勉強ですか。小生も一人きりのつらい淋しい生活を続けて毎日屋根裏でこつこつ勉強をしています。 話をしたくも誰もなくそれこそ自分に同情をよせてくれそうな人は全くないのでそれこそこんなことで月日が…
「道路は全部アスファルトで我が日本のように壊れた所は少しもなく、皆、見事なものです。 自動車は素晴らしい大きな奴がうようよとしています。地下鉄道は6台連結のものがさかんに走っていて、皆どれもこれも非常な進歩ぶりを表しています。 電車(中の人注…
婚約者黒澤すみ(のちのたなかすみこ)の姉、黒澤ゆき宛 だいぶ暖かくなりました。春らしい良い気候になりましたが、日本の懐かしい桜がないので、それが淋しくてなりません。どこを見ても大きな重苦しい建物ばかりで、只、それに少しばかりの青い草木がある…
「道路はよく整っていますが、その割にゴミの多いことで、その点は日本も変わりません。ただ、交通の盛んな道路は自動車の多いために道路が光っていることです。これなどは日本では全く見られないものですが、よくもあのように見事に光っているのだなと思い…
この日の残されている手紙は、いきなりクロイツァー教授の話となっています。文章の流れからもう一枚あったのでは?と思いますが、古い話です。散逸してしまったのかもしれません。長い年月が経っているので、仕方がないです。 レオニード・クロイツァー ja.…
「日本の欠点としては先生は真に偉くなり過ぎるのが、大変に悪いことでこれがそもそもの進歩を妨げることとなり、従って生徒の上達ということにも非常なる影響を及ぼします。(こんなことは日本の方には大きな声で話すべきものではありません。全くに秘密で…
「これでしばらくは音楽会はないように言っていますが、万一また何か良いものがありましたならば、プログラムをお送りいたしましょう。 ホッホシューレ(中の人注:ベルリン高等音楽院のことだと思います)のオーケストラはあまりに上手とは思えませんでした…