昭和3年7月

21.昭和3年7月1日1 メンソレータムお役立ち。クロイツァー先生のレッスンはコハンスキー先生のレッスンと似ている。

7月1日 すみこ様へのお返事 ①ベルリンの絵葉書でこちらから御送りする者の中で、あるいは同じものが重なる場合もあるといけませんから、お暇の折に一寸絵葉書の場所、名前をお知らせください。同一場所でもハガキが違うのならば、よろしいのですが、全く同じ…

22.昭和3年7月1日2 婚約者黒澤すみにいろいろなアドバイス。やっぱりドイツは景気が悪い

◎大家の教授はヘッポコのようにつまらぬ注意がなく、大きなあっさりしたものですから、こちらによほど素養がなければ全く何が何だかわかりません。ですからいつまでも注意は暗示を与えるというにとどまり(?)は何でも自分でしなければなりません。自分でい…

23.昭和3年7月1日3 黒澤すみの東京音楽学校での演奏会。「家庭としての美しい柔らかな円満な心の勉強をいたしましょう」

◎総練習こちらもぞくぞくします。目の前に見えるようこちらに来ては皆さまの顔が見えないので失望します。実に良かったことと思います。Lau氏の棒、黒ちりめんの礼服及びはかま、それに金ボタンの選手たちが熱情をこめての演奏でしたから、その出来栄えそこ…

24.昭和3年7月1日4 洗濯石鹸で身体を洗ってしまったり、お買い物の失敗だったり、近所の子どもに「日本の切手」をあげたり。

⑦お話があらゆる方面にわたりますから、どうぞそのおつもりで願います。 先日も面白い失敗をいたしましたしたら、申し上げましょう。これは多分私の家の方からお聞きのことと思いますが、なお私から申し上げておきます。こちらではバスも(中の人注:風呂の…

25.昭和3年7月1日5 ベルリンでの日々の暮らし。夜11時ごろにやっと暗くなります。食事が塩辛いのは閉口。泥酔するドイツ人を見かけない。

「便所とバスとはたいていのところは同室ですが、私がもと居ました所は、その室が一寸切ってありますので、一度私が静かに入浴中、となりの便所に来た人が出る時に電気を消してゆかれたので、こちらはびっくりしました。大急ぎで抜き足差し足で電気をつけに…

26.昭和3年7月8日1ベルリンでの日々の暮らし。ドイツ語早くて理解不能。ドイツは右側通行です。いつまでも寒いドイツ。繕い物をしました。日本料理店の常連となりました。

7月8日 ⑨だいぶドイツに慣れてまいりましたが、未だなかなか失敗しています。言葉が本場だけに日本と違ってテンポが非常に速いため、2,3度アンコールをたのむような次第で、つまらぬことでも5分間くらいかからぬとよくその意味がわかりません。わかったつも…

27.昭和3年7月8日2ベルリンでの日々の暮らし。ドイツ人と日本人の体格差。下宿の話。

⑩体格でもそうですが、内地の女の方の体格はこちらに来ている人で言うとまるで半病人のようです。よく大使館や料理店で会いますが、身体が妙に前に曲がっていることで、何程こちらの人が「病人だ」と言うのはもっとものことだと思いました。洋服と身体とがき…

28. 昭和3年7月15日1 すみこの姉の絵の話、「柔らかい心の練習もいたしましょう」

7月15日 ①すみ子様のお手元へ ◎御姉上様の大作、見事に拝見いたしました。立派なものです。帝展にご出品はいかが?是非におすすめいたします。写真では色がわかりませんので、惜しいですが、本物はより以上に見事な出来栄えと思いました。よろしくお伝えくだ…

29.昭和3年7月15日2 ベルリンでの日々の暮らし 日曜日は買い物出来ない。規則正しい生活ぶり。

⑪日曜日をうっかり忘れて土曜日に買い物をしないでおりますと、日曜日に非常に困る場合がおこります。今はだいぶに慣れましたので、失敗はありませんが、これまでよくそれで困らされました。日曜日にありますものは、飲食店位なものでしょう。只今でも一寸困…

30. 昭和3年7月15日3 ベルリンでの日々の暮らし お金、果物、チョコレート、アイスクリーム。

⑫1マークとは日本金の薬50銭位に当たります。種類をお話いたしますと、銅貨、白銅貨、真鍮貨、銀貨、紙幣に別れていて、銅貨には1ペニヒ、10ペニヒ、50ペニヒ、銀貨には1マーク、2マーク、3マーク、5マーク、紙幣には5マーク、10マーク、20マーク、50マーク…

31. 昭和3年7月22日1 ベルリンでの日々の暮らし 「自分の力に合ったものを上手に弾くことが第一です」ベルリンにもっと居たい

7月22日 ①お返事(すみ君へ) ◎音楽会のプロ(中の人注:プログラムのこと)を感謝します。木村氏のプロ(中の人注:こちらは演奏曲目のことと思われる)は私の知っておるものですから、きっと良かったことと思います。木村氏によろしく。 ◎すみ君の方はまた…

32. 昭和3年7月22日2 ベルリンの夏は暑くない。ドイツ人の働き方

⑬7月13日ごろから急に夏らしい暑さとなりましたがそれも3,4日続いただけでまた元の涼しさに返りました。入梅の心配はなく、いつも天気が続いて暑くても内地ほどカラリとしたこともなく、本当にいやになります。今まで真夏の候が急に雨でも降ると秋のように…

33. 昭和3年7月22日3ヴィクトリアカフェの話。「なんでドイツでジャズを聴かなくちゃいけない訳?」

⑭新下宿のすぐ近所にカフェーがあります。(これはヴィクトリアカフェーと言って日本人が最も多く行くところで例の怪しい女性のたくさんに出るところで有名になっておりました。私は時々前を通るのでよく中に誰がいるのか、わかります) が、食事をするのに…

34. 昭和3年7月29日1すみこへの返信1

7月29日 ①お答え(すみ子様) ◎第9信、7月25日落手しました。御姉上様の御通信は大変に遅れて7月26日に到着、厚く御礼します。 ◎こちらからの絵葉書は到着してゆきますので、愉快に存じます。忙しい時はどうかその方に極力勉強通信下さらずとも結構です。多…

35. 昭和3年7月29日2 すみこへの返信2 石田一郎のこと。すみこは規矩士にマフラーを編むかも。イギリスの黒澤敬一兄がラジオで演奏しました。

②私もこちらに来ては何もかも忘れて勉強に全生命を落ち込んでいます(中の人注:全勢力をピアノに注いでいると言いたいのか?)ピアノを弾いている時など、日本と違ってその曲から聞こえてくるある精神に打たれて一人で涙を流すことがあります。この間もしば…

36. 昭和3年7月29日3 ベルリンには蝉がいない。「近所のレストランのピアノでリストを聴きました。驚きました」

⑮暑いので夏とは思いましょうが、蝉の声がないのは非常に物足りないです。その代わり盛んに秋の虫が鳴いていますから夏と秋とが一緒に来た感があります。一度で良いから大好きな蝉の声を聞きたいと思っておりますが、それが得られないのはまことに残念です。…

37. 昭和3年7月29日4 合唱の話題

「人が3人位集まれば必ず合唱をしますが、日本式のいやな声はありませんから、いつでも気持ちよくなります。一人が弾けば皆が相和する言うようにいつでも喧嘩等は起こらず、またぐでんぐでんに酔った者もなくして賑やかに楽しそうに毎日を送っているように思…

38.昭和3年7月29日5 「すべての信仰は偉大な神の声、音楽から与えられるものがまた非常に多いということも忘れてはならない」

⑯讃美歌でも歌いようによっては良くもなるし悪くもなるから、日本にもこの位の良いものがあったならばどれだけ多くの人が好きになったろうと考えられます。日本式にあんないやな声でしかも無理に有難たがらせて信仰に引き入れるようにするのは私でも本当に嫌…