1929年1月19日 午後8時開演 ベートーヴェンザール
ベートーヴェンの夕べ
ピアノ:ヴィルヘルム・バックハウス (1884ー 1969)
曲目不明
ドイツ、ライプツィヒ出身。ピアノは母が手ほどきして、ライプツィヒ音楽院に学ぶ。フランクフルトでリストの直弟子ダルベールに師事。
1900年16歳でデビュー。1905年パリで行われたアントン・ルビンシテインコンクールで優勝。ちなみにこのコンクールの2位は作曲家として名高いバルトーク・ベラ(ハンガリー人なので、苗字→名前となります)。バルトークは優勝出来なかったのに悲嘆してピアニストを諦め、作曲家になったとういう有名なエピソードがあります。(中の人心の声:2位だって充分だと思うんだがねえ。)このコンクールの4位があのレオニード・クロイツァー先生です。このコンクールには後に東京音楽学校で教鞭をとったピアニスト、レオ・シロタ、指揮者のクレンペラーも参加していたそうです。
(山本尚志著 『レオニード・クロイツァーその生涯と芸術』音楽之友社 2006年36ページ)
1909年(25歳)には世界で初めて協奏曲をドイツ・グラモフォンのSPレコードに録音。
1928年(44歳)には世界で初めてショパンのエチュート全曲を録音しました。
人生のほとんどを演奏活動に専念。1954年(昭和29年)来日。規矩士は存命でしたが、来日コンサートには出かけたかどうかはわかりません。
1969年6月28日のコンサートの演奏中、心臓発作を起こし、曲目を変更して演奏。最後になった曲はシューベルトの即興曲D 935 Op.142-2。コンサートの一週間後に亡くなった。この最後のコンサートは録音が残っていて、現在でも聴くことが出来ます。
【Wilhelm Backhaus plays Schubert Impromptu in A flat Op. 142 No. 2】
規矩士が聴いた1929年はバックハウス45歳。一番油の乗り切った最盛期でもあり、おそらく素晴らしいものであったと思います。
規矩士が書いたバックハウス評のハガキが残されていました。規矩士がベルリンで何回バックハウスの演奏を聴いたかはわかりませんが、ベートーヴェンについて言及しているので、このコンサートのことかもしれません。
御母上様 すみ子様
バックハウス氏の演奏は確かに大きくそして乱暴ではありません。大きいと言うことはある意味では大雑把とかいう言葉に当たるかも知れませんが、氏のどんなものでも一様で(大曲、小曲の別なく)聴く者はただただ感服させられるばかりです。
クロイツァー先生はよく私に話されますが、すべての芸術は一番何が必要かと言うにやはりテクニック、そのものがそれで、これが出来ないうちは如何にムードカリシュ(中の人注:意味が解らないが、表面だけでの表現のことを言いたいのかと推測する。)でも芸術にはならないとの事です。
これは私も内地にいる時からよくそれと同じことを申し上げたつもりですが、殊に日本人には現在より以上のテクニックを要求されても良いと思っています。
こちらの人にはその言葉はもはや適当しないかも知れませんが、それでもクロイツァー先生などは盛んにそうお話しになるのですから。如何にテクニックの必要なことはこれでもおわかりでしょうと存じます。
テクニックの素晴らしいだけでもなるほどのことまでは驚かされます。ましてその上にジカリッシュ(中の人注:言葉がわからない。おそらく魅力的?表現が素晴らしい?というドイツ語?)ではとてもたまりません。(芸術は勿論テクニックをそなえて音楽的であることが必要条件ですが)
バックハウス氏はちょうどゴドフスキ―氏くらいの身体の大きさで演奏から判断して手もあまり大きくないと思いました。コードは(中の人注:和音のこと)そのためか少し硬く弾かれましたが、パッセージは(中の人注:いろいろな意味を持つ言葉ですが、規矩士が言いたいのはおそらく音階とか順次進行の速い楽句とかのことだと思います。中の人もパッセージというとそういう認識です。多分間違っていないと思うのですが。)いつも美しく、そして正確確実、伴奏時でも決して曖昧な所なく、ペダリング(中の人注:ペダルを踏むテクニックのこと)は特に鮮やかなため、どんな早い所でもはっきりと、和音(中の人注:和声かもしれない)及び転調、いずれも聴く者に良い理解を与えしめてくれたことは、氏に感謝しているところです。感情もまた大きいのは言うまでもありません。
レコードで良く聴いたので、(中の人注:漢字が読み取れない)に本物とは違っていませんが、本物はとても言えない良いところがあります。氏はアンコールはあまりやりませんが、大曲、小曲大抵の人のやるものは平気で弾かれます。リストでも感心したのですが、ベートーヴェンはなお、それ以上だったと思われました。(ベートーヴェンは例のケンプ氏がありますので)ケンプ氏をおいてはどうしてもバックハウス氏だろうと自分は見当をつけています。
バックハウスといえばドイツ正統派で、ベートーヴェンとかブラームスとか。中の人はそういうイメージでしたが、戦前にはベートーヴェンとかブラームス以外も多く弾いていたみたいで、調べてビックリです。
世界初録音とのことです。1928年。規矩士がコンサートに行く少し前。ほぼ同時期と思っていいと思います。あのポリーニとは違うアプローチ。素晴らしい演奏だと思います。
【Wilhelm Backhaus plays Chopin Etudes Op.10 ショパンエチュード集Op.10】
これはビックリ!こんな曲も演奏していたんだね。
【Wilhelm Backhaus plays Kreisler "Liebesleid" (arr. Rachmaninoff)】(ピアノロール)
1927年の録音だそうです。
【Wilhelm Backhaus plays Schumann-Liszt "Widmung" (1927 rec.)】