120.昭和3年12月24日1 すみ君へクリスマスのお便り1ベルリンは寒いです。

(「すみ君」宛のお手紙は、相変わらず話題が飛びまくるので、編集をして順番を入れ替えました。番号を追うと元の順番になります。「すみ君」宛の手紙は、規矩士が思いつくままに書いているのでしょう。)

12月24日

すみ様

1.下宿の者が机の上に乗ったため、めちゃめちゃに壊れました。机を何と心得ているのかわかりません。机の上で何か踊ったのでしょう。乱暴には呆れます。

2.美術館のナイチンゲールがないとは惜しいことです。

6.ベルリンのプロ(プログラム)等、大事に御保存願います。

7.ベルリンの寒さはまるで刺されるようです。5分間でも外に立っていることは出来ません。身体が冷えてしまいます。それに鼻から出る息がしずくとなって、ポタリポタリ落ちるので、いつもハンカチを忘れることが出来ません。どうも手もしもやけが出来そうで心配しています。歩いていても足の裏がしんしんと冷たく感じます。ことに夜分はなおさらのことです。大体見当がつきましょう。市内は絶えず砂が撒かれます。市内の広場では毎日スケートで大変賑わいです。寒い上に風があったならば大変ですが、それがないだけが助かります。一時間も外出して帰ってくると身体がとても冷たくなってことに顔などは氷が張ったかと驚かされます。顔の皮があまりゴワゴワに突っ張るので、びっくりします。これからますます寒くなるのでしょう。幸いに元気ですからご安心ください。

9.毎日あの暖かい襟巻を使用していることをご記憶願います。いつも大変に助かっています。

8.御母上様の編み物、本当に恐縮します。到着次第、御返事しますから、どうかよろしくお伝えください。

24.いつもいつも有形、無形、沢山に頂戴していますので恐縮しています。

17.人間様以外のご家族がいなくなったので、さぞお淋しきことでしょう。こちらにはやはり南京虫が相変わらずです。もうあきらめています。何をやっても薬はだめですからよしました。南京虫の生活力のあるには驚きました。一か月くらいは袋の中に生きたのを入れておいても死にません。机の中に数匹しまってありますから、いつでも生きたのを差し上げます。内地に着くまで必ず生きていましょう。とても大きな奴ですから、(漢字読み取れない)きましょう。なかなか簡単に捕まえられませんが、幸い数匹生け捕りました。うんと血を吸った奴でウロウロしているところを捕まえたのです。夜中に電気をつけてやっと捕まえたやつです。実にけしからん奴です。何の薬も一時的で、完全にはガス消毒の他はありません。内地の薬などはこちらに来たら全く何にもならぬでしょう。これほど左様に南京虫の猛威はたくましいものです。

36.聖句のはもう他にないので、惜しいです。新聞の不足税位は何でもありませんから、御心配なく。歯ブラシ恐縮します。南京虫のお薬はこちらにもたくさんありますから、そのご馳走はお控え下さい。

21.切手も面白いよりか尊いようです。子どももいつも非常に喜んでいます。先日はそれがために私の荷物を持ってくれました。

25.引田様、原田様もご帰朝になるので、多少淋しくなりましょう。けれどもだいぶこちらに慣れましたから、ご安心下さい。始めから一人のことが多いのですから、別に急に淋しくはならないでしょう。今度は私から皆様に出来るだけのことをしたいと思っています。

(中の人ツッコミ)

1928年のクリスマスのお便りです。

ベルリンは寒くなりました。あの婚約者すみこのマフラーを愛用しているようです。そしてすみこの母も何か編み物を贈るようです。寒いベルリンでは重宝することでしょう。良かったですね。

下宿の机が何かで荒らされてしまったようです。困りますね。

南京虫の被害は相変わらずです。

近所の子どもに切手をあげているのも変わらず。子どもたちが喜んでくれているようです。

例の原田教授が来年春に帰朝するので、規矩士は「やっとベルリンに慣れたから大丈夫」と強がっているようですが、本音は「淋しいし、トラブルがあったらどうしよう」と少々心配をしているように見受けられます。