投稿110,111のラフマニノフの演奏を聴いた感想の続きがこの手紙のようです。
「ショパンのファンタジーf-mollはこちらではいろいろの人が演奏します。クロイツァー先生も時々弾かれるので、深く印象しております。ラフマニノフ氏の演奏を聴いて、何程良いと思いました。今日までかなり多くの人の同曲の演奏を聴きました。日本では以前にゴドフスキー氏が演奏されたことを記憶しています。
ショパンのロンドは普通で、ノクターンはやはりパデレフスキー氏のが良いようでした。ワルツ、スケルツォも良く、殊にエチュード(E-dur,c-moll)はとても感心しました。
(中の人注:ロンド、ノクターン、ワルツ、スケルツォは複数あるので、これだけでは何の曲だかわかりません。
エチュードE-durはOp.10-3の別れのことだと思います。c-mollはおそらくOp.25-12大洋だと思います。)
最後の自作の演奏は却って他の方が良いように思われました。例えばゴドフスキー氏のラフマニノフ、プレリュードが宜しいように。
アンコールは例によって私の好きなトロイカを弾かれましたが、何だか自然に涙が出てハンカチを濡らすべく余儀なくされました。故人の在りし日が思われて、人知れず悲しみを新にしました。レコードでなく、本物のトロイカを聴く時の気持ちは未だに忘れることが出来ません。
(中の人注:トロイカと言えばチャイコフスキーの「四季」の11月「トロイカ」でしょう。)
(中の人注:ラフマニノフの演奏会は)ベルリンにおけるただ一回の独奏会で、本当に惜しいことです。また、来年には何かあるだろうと、今から楽しみにしています。
アンコールにはなおショパンのEs-durのワルツを弾かれましたが、(これは前に浅田さんや時澤さんがやったもの)これもその昔が思い出されてしばらくぼんやりとしました。
大家の演奏は済んだ後でも幾日は良い印象が残っています。
自分の良く知っているものは一層その感が深いでしょう。それからそれへといろいろのことが頭に浮かんで、その夜は良く寝られませんでした。
震災前の横浜の宅の事なども妙にレコード(ラフマニノフ氏演奏)から追想して、何だか夢のように思われました。どうか今一度氏の演奏を聴きたいものと願っていますが、それは最早来年でなければその機会を得ることが出来ないので、がっかりしています。
(中の人ツッコミ)
ラフマニノフのリサイタルの感想が続いています。
投稿110,111から察するに
プログラム
バッハ-ブゾーニ:Zwei Orgelchoral-vorspiele
(Bach-Busoni - The Complete Nine Chorale Preludesのこと?)
リスト :巡礼の年 第2年「イタリア」 「ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」 S.161/R.10-7 A55
ショパン:練習曲Op.12-3(別れ)
ショパン:練習曲Op.25-12 (大洋)
ラフマニノフ:何か。
アンコール
チャイコフスキー:「四季」Op.37bisより11月トロイカ
ショパン:ワルツ(おそらくワルツ第1番 「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調 Op.18ではないかと推測する)
余裕のある技術で上品かつ力強い演奏のラフマニノフ。この演奏会は規矩士のベルリン滞在の一番の思い出になったかと思います。
規矩士の評ではリストやショパン、そしてアンコールのトロイカは「泣けてきた」と感動していますが、意外に自作は「今一つ」と思ったようです。
そしてトロイカは何か思い出があるのでしょうか?「故人」とか「横浜」というキーワードがあります。
2年前に亡くなった敬一兄の思い出がある曲なのかもしれません。そしてあの震災で焼けてしまった家にラフマニノフのレコードがあったのかもしれません。
兄弟でもあり、音楽の同志でもあった敬一兄と一緒に「ベルリンにいられたらどんなに楽しいだろう」という規矩士の悲しみがふと見えました。