86.昭和3年10月13日4 演奏会に行くのに忙しい。「豊増昇くんと井口基成くんはどうしていますか?」

〇仲良しのお友達の事件、ちっとも心配はいりません。その御友達が自分の衣服のように身体から離れないならいざ知らず、そうでなければ何とでも独りで行くことが出来ます。そのお友達にわざわざ「行きます」と言う必要はありません。言ったことがいろいろの事件を引き起こすのは当然のことです。口に出すことはある事件を自分で求めるようなものです。私ならばもしもそんな時は口に出さず、黙っています。どうしても口に出さなければならぬ時はその時間は惜しいが事件を起こさぬようにどこにも行かぬことです。何にも泣いたり笑ったり騒ぐことは少しもありません。一寸自分が注意して考えれば物事は何でもなく済むものです。「口は禍の元」とか、つまり何もかも口から起こることはご承知でしょう。苦しいけれども話をする前には一寸考えること。誠に口に出すことはあるいはそれ以上の大事件を引き起こすとも限りませんから、御注意までに。そんな事件の場合はたくさんに質問されるたびに良い考えを与えます。自分で解決のつく問題はこの以外にもたくさんあります。この事件は口に出さぬことによって解決されます。何事も自分。自分を非常に気を付けてください。人を見る前に。」

(中の人ツッコミ)

「沈黙は金」

生涯謹厳実直で、無口と伝えられている規矩士らしい意見だと思います。

 

〇新聞は9月16日までの分、到着いたしました。まずは御礼まで。いつも嬉しく拝見いたしております。いよいよシーズンで濃厚。毎日音楽会で大多忙。ピアノ連弾、ドイツ語、通信、音楽会etc.で大活動です。音楽会を聴くだけでも大変です。こちらに来ると自然、気持ちが大きくなります。つまらぬことは考えることすらいやになりますから誰でも人が変わってしまいます。私も内地にいた時とはまるで変ってしまいました。(頭の中がです。人間は相変わらずですが)どうか皆様にもお元気で。豊増昇君からは何とも通信がありませんが、最近はどうしていますか?場所が変わったので、私の通信が着かないのかもしれません。どうか会ったならばよろしく。井口君も元気にや?両君によろしく。ポリドール曲目、音楽会報、面白く拝見いたしました。」

(中の人ツッコミ)

黒澤家の配慮で規矩士の元に新聞が届けられているようです。その御礼ですね。そして音楽会シーズンが始まったので、「演奏会通い」に大忙しと嬉しい悲鳴をあげています。良かったですね。

そして元弟子の豊増昇と井口基成の近況も聞いています。