〇鎌倉の絵葉書は思い出深く懐かしく拝見いたしております。毎日慰められております。
〇同封の赤切符はフィルハーモニー、黄切符は地下鉄道のものです。
(中の人注:ベルリンフィルハーモニーのチケットはありましたが、黄色い地下鉄の切符は散逸してしまったようです)
〇紫色のはセロ(中の人注:チェロのこと)音楽会(切符にあらず)。このセロ奏者はクロイツァー先生のトリオの一人です。音量のある美しい音色には関心します。
(中の人ツッコミ)
チェロのフォイアマンの演奏会にも行ったようです。1928年10月2日 会場はジングアカデミーホール
プログラムはペルゴレージ(?)のソナタ、ヴァレンテーニのソナタ、シューベルトのアルペジオーネソナタ、ヒンデミットのチェロソナタ、モーツァルトの何だろう?グラナドスのスペイン舞曲、タルティーニの変奏曲。中の人はチェロは詳しくないのでよくわからないものもありますが、ヒンデミットはこの当時の「現代音楽」ですね)
〇黄色のはザウアー氏ピアノ独奏会で、これには是非まいります。毎日ドイツ語の稽古で忙しくしているので、忙しい時に音楽会がある時は本当に行かれないで惜しい事があります。
(中の人ツッコミ)
エミール・フォン・ザウアーのコンサートにも出かけたようです。
1928年10月4日 フィルハーモニーホール
プログラム
ハイドン:アンダンティーノヘ短調(何だろう?)
ザウアー:ピアノソナタ第一番ニ長調
シューマン:幻想曲作品17
ザウアー:練習曲《カプリス》
リスト: 作曲超絶技巧練習曲 第9番「回想」
シューベルト=リスト:Trauermarsch Es-moll
シューベルト=リスト:Reitermarsch C-dur
(この2曲は3つの行進曲(シューベルト) S.426 R.251ではないかと思いますが何でしょう?)
ショパン:ポロネーズ、」ノクターン、エチュード、ワルツ
エミール・フォン・ザウアー(1862-1942)
ドイツのハンブルク出身。オーストリアのウィーンを中心に活躍。リストの高弟でもあった。
〇赤いのはカンマ―コンサート。もう毎日こんな音楽会で、ベルリンはベタベタです。一晩の中にピアノ独奏会が3つある時は、(どれも善いものばかり)どれにしたものかと困らされます。ご馳走攻めです。
(中の人注:同封チケットは散逸)
〇内地からもいたるところから通信が来るので、その返事も何と書いてよいものか、頭がこんがらがってしまいそうです。何分独りで何もかもするのですから、こんな時こそ誰か助手たあってほしいものと願ってやみません。
〇朝起きて、顔を洗う時がホッと一息つける時で、その他はそれからそれへと頭を使わされます。
〇誰かが「早く帰ってください」などといたずらを言って来たりして面白いです。その返事には「5年もいるでしょう」等と脅かして書いてやります。まるで中央気象台みたようです。こちらも毎日天気予報を出すようです。
中には感心にご忠告を下さる人があります。勉強についての感じ。将来は(?漢字が読み取れない)こんな具合にしてください(演奏について)。この方面を充分に勉強して下さいと。甚だ恐縮に存じております。いろいろの事で毎日を夢中で暮らしております。船会社では帰朝の船室を今から言ってくるなど、さながら2.3年が明日のつもりでいるらしいです。或いはそうかもしれませんが。私も元気。ご安心ください。
(中の人ツッコミ)
やっと規矩士待望の演奏会シーズンとなりました。いろいろと演奏会に出かけているようです。同封チケットからチェロのフォイアマン、ピアノのザウアーに出かけたようです。
チェロのフォイアマンは戦前2回来日しました。桐朋学園音楽部門の創立者でもある斎藤秀雄の師としても、日本と所縁の深いチェリストでした。
斎藤秀雄はチェリスト・指揮者。世界的指揮者小澤征爾の師として有名です。
私が学生時代には学内にはまだ斎藤先生の弟子や、薫陶を受けた人がたくさんいました。その方々が「斎藤イズム」を伝えていました。私もたくさん聞いたものです。
そして婚約者すみこが「早く帰ってきて!」と手紙を出しているようです。規矩士が「5年後に帰ります」とからかっています(笑)。