㉕昨9日、シーズンの皮切りとして、ウンターデンリンデンオーパーに行きました。6時半から11時半まで5時間にわたる大物、さすがワーグナーの作だけに最後まで息を凝らして聴きました。題して「マイスタージンガー」これはレコードでもご存じでしょうが、こちらで生のはまた格別です。
約10分ほどのオーバーチュア(中の人注:前奏曲のこと)は日本でもよくやりますが、(私も音楽学校の時は2度ばかりやりました)どうしてとても問題あらず、
始めてオペラのオーケストラならではのものを知りました。あの力強いコード及び柔らかいメロディ、全く何から何まで感服の他はありません。詳しいことは何か内地の書物をお読みください。
オペラシンガーの粒ぞろいのことも、またオーケストラメンバーも相対して立派なものでした。何故あんなに美しいのでしょう。
オーバーチュア(前奏曲)が終わると幕は静かに開かれました。もうその幕間は我を忘れます。幕は3つに分かれていて、ことに中間のはとてもたまらなくなりました。私ははじめから終わりまで泣かされました。(この日、数名の私の知り合いの日本人がおられましたが、珍糞漢。まことにお気の毒様でした。)
オーバーチュア(前奏曲)はご存じですか?あの美しいメロディを内地ではさのみに思いませんでしたが、こちらに来て実際に聴くと何程と感じます。
オーケストラのF(中の人注:フォルテ。音楽用語で強いという意味)、P(中の人注:ピアノ。音楽用語で弱いという意味)はまるで内地のそれとは全然異なります。ラウトルップ先生も日本に来てがっかりしたのも無理はないでしょう。どんなに細かい部分でもテクニックは確かですから、本当に安心して聴かれます。
私は勿論歌手も良かったのですが、それ以上にオーケストラの素晴らしいのには驚かされました。(オーケストラ部員は100名位いましょう)
指揮者は老人で立派な方です。歌手とオーケストラと少しも外れることなしで、5時間というものは何の芸(?漢字が読み取れない)もなくやりとげました。(これまで日本に来たこの種のものとは全く別物です。以来、伊(中の人注:イタリア)、仏(中の人注:フランス)、米(中の人注:アメリカ)にも行って研究するつもり故、その都度何か申し上げましょう。この所はすべてドイツについて言うことにします。)
オーケストラでも申せば、100人が100人とも一つになって動いています。日本なら各々が独立で調弦が少しも取れないのが、こちらは全体が一つで動きますから、指揮者の頭(漢字が読み取れない)何でもどのようにもなります。一寸上野、新響とはどの位差がありますかな?
内地では最も危険な吹奏楽器が本当に安心して聴けます。弦のPPP(中の人注:ピアノピアニッシモ。音楽用語で、ものすごく弱くという意味)の中にオーボエ、フルート、ファゴットあるいはホルンのソロ、これがまた何とも言われません。弦と菅とが少しも不調和なくあるいはホルンのソロ、これがまたなんとも言われません。弦の伴奏となる場合など、ほとんどかすかに遠くでささやくようなところもあります。内地のガサガサした演奏、むしろやかましく感じられましょう。
オーケストラメンバーも共に歌っているようです。いずれ又、オーケストラとしては、この方面だけのを聴くつもりですから、その折に申し上げましょう。歌手は200人くらいあるいはそれ以上かもしれませんが、コーラスがまた素晴らしく、これだけ聴いても充分の価値はあります。(米国のは1000人も出るような話ですが、行った上でないとわかりません)背景も上出来。一つとして不自然はありません。細かい筋を申し上げるのですが、これから沢山に見るので、その時間も得られず、大体のことを申し上げて次へと移ります。
今日の感想はワーグナーとしては成功でしょう。
欲を言えばステージを今少し暗くしたらばと思いました。胸にドキンとする感じはいずれ帰国の上、詳しくお話します。紙上では何と言ってよいか、ただ素敵ばかりの手紙ではわかりませんから、その時の時分の気持ちだけを筆を借りて申し上げる位に留めます。
(中の人ツッコミ)
ウンターデンリンデンオーパーとは、ベルリン国立歌劇場のことです。リンク先に写真があります。豪華ですね。
日本にはない建物です。
ここで規矩士はワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を見ました。このオペラ(ワーグナーなので楽劇というべきか?)は演奏時間5時間ほどかかります。大曲です。
これを規矩士は日本では見られない豪華絢爛な歌劇場で、これも規矩士の時代では日本では上演されない「マイスタージンガー」を見るという贅沢をしました。
(日本での初演は1960年だそうです)
歌手たちの立派さ、オーケストラと(特に金管、木管楽器の技術の高さに驚いていますね)合唱のアンサンブルに感動しています。
長いオペラ(楽劇)ですが、感動であっという間に感じたようです。
そして規矩士はこの前奏曲の演奏に東京で演奏に参加したことがあるようですね。
【ジュゼッペ・シノーポリ指揮ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
私はこの人の指揮でマーラーの交響曲8番(千人)の合唱に参加しました。すさまじいオーラを持つ指揮者で、「世界的指揮者というのは、凡人の我々とは違う次元にいるんだ」と思いました。
ベルリン・ドイツ・オペラ(ベルリン国立歌劇場ではない。ベルリンは東西ドイツに分かれたので、歌劇場も2つあります)で指揮中に急逝。亡くなったのが惜しまれます。