⑳だいぶ日もつまりました。今まで11時頃までも明るかったのが、最近は9時頃になると暗くなります。市内電灯は大抵8時過ぎにつきましょう。余程暗くならなければつけません。これからだんだん寒さに向かうと思うと少し心細くなります。今までの気候ならば一向に感じませんが、寒くなるとまたあかぎれやらひびやらで困るのでしょうから、メンソレータムは本当に沢山使用しました。外国人の手が大きいので、この4月に着いた時にあまり寒いから「手袋」と思って探しましたところ、右のためにとうとう駄目でした。とても大きいので、私共の手にはダブダブでとても仕方なく冷たいのを少し無理をしたためですが、5月ごろまであかぎれやひびで悩まされました。おかげ様でメンソレータムが非常に有難く使用せられましたことを厚く感謝いたします。4月ごろでも耳たぶがかなり痛かったことを今もよく記憶しています。町を歩いていつもうるさく思いますのは、しょせん一度写真技師の多いことで、賑やかな町の角々には大抵おります。人が通ると限らず前に来てレンズを向けますが、それがまたとても上手に話しかけるので、新来の人はよくかかります。私も初めて来た時に危うくこれにかかる所でしたが、幸い事なきを得ました。近頃では平気になっていくら言ってきても無言でどんどん通り過ぎてしまいます。この種のものは日本には一寸ないでしょう。ちょうど新聞屋の写真と思ったら当たりましょう。
(中の人ツッコミ)
メンソレータムが大変に役立っているようです。メンソレータムはどうやら黒澤家で用意してベルリンに送ったようですね。規矩士先生は「あかぎれ」や「ひび」といった皮膚疾患にかかりやすい体質のようです。ピアニストが手に「あかぎれ」「ひび」は辛いですね。お大事に.....。
規矩士先生にシアバターや、ワセリンや、ヘパリンスプレーをお届けしたいですね。尿素入りクリーム、馬油も。(^^)
「一週間に多いところは三面、少ないところでも二面位決まってマーケットが開かれます。それはある広いプラッツ(中の人注:広場のこと)ですが、これはその区によって異なり時には同時に二か所で開かれる場合もあります。中には教会の周りを使用することも見かけましたが、教会の周りだけはあまり良い気持ちがしません。普通はマーケットとして特別に広場が設けられてあります。散歩の折、マーケットにぶつかる時もありましたが、その時は別に用がなくても中を見物します。マーケットですから、日用品は何でもあります。日本のものと全く同様で、ただ、異なるのは一週間に日にちを決めて何度という所が少し違うかと思います。これまでにかなり見物しました。以前には時に果物を求めましたが、ここで求める品物は新しくて、しかも他より非常に安価な事でしょう。果物等いくら新しいと言っても内地のようなものは一つもありませんから、比較的新しいという位の程度に過ぎませが、普通の店で求めるものと比べてみると、少しは新しそうなところがあります。
マーケットの開かれる時は非常に賑わいます。大抵昼頃から夕方位までで、その人出は場所によっては違いますが、相当にゴテゴテします。私の求める元は果物より他はありませんが、他の品物でも割合に安価に求められます。家庭の御主婦様が大多数ですが、もちろん大、小紳士、官憲殿、主人、何とあらゆる階級の御方によって埋められています。私などが歩くとよく珍しそうに見ますが、中にはうるさく「買え。買え。」とすすめる者もあります。ここの品物は全部普通の店のものより幾分づつ安いことです。まあ果物なんかはここで求めるほうが新しくて、しかも安価。一挙両得と思いますから。
魚類はご承知の如く平坦地(中の人注:平野かもしれない)ですから、海のものは殆どなく、大抵川のもので、用をたしております。川のものではラインの鮭は有名なものになっています。その他鯉とか、鰻とかなんと沢山に種類もありますが、とても何が何だかわかりません。生きているものの他は皆、樽詰めです。ここを見ると日本という所がしみじみと有難くなってきます。外国に来て本当に日本がわかってきました。」
広場で市が立つのですね。現在のものですが雰囲気だけでもとリンクを貼ります。
【ベルリンのマーケット】
【ミュンヘンのマーケット】
【ハノーファーのマーケット】
いろいろと調べましたが、ドイツではハンブルクのような海辺の街以外はあまり魚は食べないようです。規矩士先生がいらした時代と違って現在は流通が発達しているので、内陸の街であるベルリンでも食べられるようになったようですが。
規矩士先生の時代には冷凍技術がないので、魚はおそらく樽に塩漬けでしょう。
(冷凍技術は既にあるようです)
こちらのウェブサイトには、ドイツで食べられる魚類が書いてありますが、海の魚はやはりハンブルクとかの名物だと思います。(ドイツって地域によってかなり違うそうです)
ドイツのスーパーの魚の売り方って豪快だねえ。