「日本の欠点としては先生は真に偉くなり過ぎるのが、大変に悪いことでこれがそもそもの進歩を妨げることとなり、従って生徒の上達ということにも非常なる影響を及ぼします。(こんなことは日本の方には大きな声で話すべきものではありません。全くに秘密ですからそのおつもりで)外国は決してそうではなく、先生自身が非常なる研究をなし、(先生同志でも研究の競争をしているようなものです)生徒を励ましておりますから、生徒はいやが上にもめきめきと上達いたします。この式を倣って私共も国に帰りましたならば、先生ということを忘れて前よりもなお一層に研究をし、皆様方の上達に御便利をはかりたいと考えております。」
(中の人ツッコミ)
規矩士の没後、妻のたなかすみこが主宰した「全国いろおんぷ協和会」では、会員の技術向上のために多くの講習会、マスタークラス、ワークショップが行われました。規矩士のこういう意見の影響であったと思います。
外部講師として最多であったのは豊増昇氏でした。
定った名誉職を良いものとして偉そうな顔をするのは勿論進歩を妨げますし、少しも上達はいたしません。音楽の都と言われるドイツでさえ、日夜研究ということを決してゆるがせにせずとうしたならば、前より一層良い効果を得られるかとか、或いはより良く弾けるかとかいろいろに考えておりますから、一つ曲でも何回となく同じ人によって弾かれるそうで、
先日もピアニスト、シュナーベル氏の演奏を聞きましたが、これなどは今までに何度か演奏せられたら由にて、それなどをもってしましても如何に同じものを弾いても一回やるごとに演奏法が違ってくると言うことをその人から教えられているようなものです、との話でした。良い音楽会は私がこちらに来てから今までにただ2回だけで、(つまらないものはありますが、多く僄値なしと)本当に残念に存じております。いずれ来年には第一番にかけつけることを楽しみにしています。この2回の音楽会のプログラムをお目に書けます。(音楽学校には多分1枚だけ送るつもりです。プログラムはこれだけしかありませんから、失わぬようにして下さい)」
同封されていたプログラム。
音楽院ホール(多分)にて。
1928年5月14日(月)夜8時開演
アカデミーオーケストラ ベルリン(ベルリン高等音楽院のオーケストラだと思う)
指揮:ワルター グマインドル
ピアノ:アルトゥール・シュナーベル
曲目
シューベルト:交響曲第7番D759 (未完成)←超有名曲ですね。
アルトゥール・シュナーベル
(中の人は「音色が綺麗」と思いました。生で聴けたなんてウラヤマシイ)
1930年(昭和5年)の録音があったので貼ります。
7分あたりにおそらく本人と思われる写真があります。