169.昭和4年2月27日12 すみ様8(雑談)原田教授が帰国します。

10. 原田氏はいよいよ7月5日に横浜到着です。御通信をいただくと同時に、原田氏にお伝えしました。大変に御喜びで、何度も私に御礼がありました。なお、蒲田のお宅へ何か御通信いたしたいとのことで、とりあえず蒲田の御住所をお話しましたから、多分1週間のち位に(只今丁度学校が休暇になるところなので)内地宛に出されるだろうと思います。

英国について何か御案内あれば、どうかよろしくお願いいたします。私もあるいは行くかもしれませんから。

氏はすみ子女史を知りたいとのことで、いつかの写真を見せましたら「一度でますます恐縮する」とのこと。如何ですかと問えば「奥様がお出迎え下さってはいよいよもって何ともはや御礼を申し上げようもございません」と。流石数学、物理のプロフェッサー(中の人注:教授のこと)はとても頭の良いことを押して知るべしと(漢字が読み取れない)きました。いろいろの写真をその時に見せたのですが、その中からすぐに見当をつけられました。

始めは何と言ったものかとうんと考えて「親類の者」としておきましたが、どうも一度で言うはビックリしました。これまで氏も大使館で「黒澤氏」の御通信を何度も見たので、どうもあるいはそうではないかと見当をつけられていたらしいです。何にしてもそんなことですから、なるべく私の親類となってうまく話をしてください。

氏も或いは「あの奥様」がとか言うようなことをうっかり言うかもしれませんから、その時は何でも「奥様」の御称号を頂戴いたすようになりましては、まことに光栄無上でてなることを言って(漢字が読み取れない)終わり。まあそんなことはないでしょうが、先方は奥様に対する態度を取らば取られますからそのつもりで。こちらもいやに奥方らしく静々とそんな必要は全くありません。

先方でも内地に着きたてのほやほや、気がソワソワですから、ゆっくりどうからは出来ないので、なるべく妨げないようにされたい。

奥様云々はまあ冗談に過ぎませんが、どうか弟と一緒に何かとお世話してください。氏に私のことは何でも聞いて良いのです。

お家の人々は信州では一寸来られないかもしれませんから。

入港時間は郵船会社に問い合わせると万事わかります。その辺はよく弟と打合せ下さい。何でも昼間のことは間違いないつもりです。一日前には郵船会社に無線電信がありますから、それを頼りにしてください。なお、こちらをご出港までに詳しいことは伺いますから、御通信します。こちらの様子はよく知らせておきましょう。

原田氏は私の兄と同様に極めて田舎式の様子をかまわない、洋行帰りとは思われないとてもバンカラの人ですから、すぐにわかりましょう。探す時は「原田バンカラの人」から見れば早わかりです。年齢は45歳、眼鏡をかけています。痩せた眼の細い人。健康と健全なる精神を希望。」

 

(中の人ツッコミ)

規矩士が全幅の信頼を置いている原田教授がいよいよ帰国の途につくようです。どうやら婚約者すみこと弟、三郎氏が出迎えに行くようですね。

規矩士がすみこの写真を見せたら「奥様」と言われてしまい、少々照れている規矩士です。あらあら。(微笑)

原田教授はどうやらドイツからイギリス、アメリカを経由しての帰国となるようです。なのでイギリスに詳しいすみこの長兄、黒澤敬一氏に「イギリスに関して何かあったら教えてください」とお願いをしています。

原田教授についてはこちら。

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