ベルリンの音楽生活

14.昭和3年6月17日4 クーダム通り。カイザーヴィルヘルム教会の中に入りたい。

「ベルリンのどこを歩いてもまず第一に目につくのは教会で、高い塔は空をついて立っており、日曜毎に(普通の日でもそうですが)打ち鳴らす祈りの鐘は、しみじみと何物かを物語っているように聞こえます。公園のベンチに腰をかけて休んでいる時など(大抵夕…

15.昭和3年6月17日5「ドイツなのに街中ジャズばかり(泣)」

「音楽会は今のところ全く一つもないので、何か聴きたくも聴かれないのが残念です。前にカフェでも相当なものをやるとお話いたしましたが、やはりカフェはカフェで、一時とはよく聴こえるように思っても、よく聴くと駄目で、今日ではもはやこれを聴くのが本…

16.昭和3年6月17日5 映画音楽はまだマシかも.....。

「活動写真では感心に相当のものをやっていました。(第一等のキネマで)人数は50人以上で、上野よりいくらか多い位。さすがに第一流の活動写真、(?)だけに堂々としています。先日はじめて友人に誘われて参りましたが、なるほどと感心いたしました。活動…

21.昭和3年7月1日1 メンソレータムお役立ち。クロイツァー先生のレッスンはコハンスキー先生のレッスンと似ている。

7月1日 すみこ様へのお返事 ①ベルリンの絵葉書でこちらから御送りする者の中で、あるいは同じものが重なる場合もあるといけませんから、お暇の折に一寸絵葉書の場所、名前をお知らせください。同一場所でもハガキが違うのならば、よろしいのですが、全く同じ…

33. 昭和3年7月22日3ヴィクトリアカフェの話。「なんでドイツでジャズを聴かなくちゃいけない訳?」

⑭新下宿のすぐ近所にカフェーがあります。(これはヴィクトリアカフェーと言って日本人が最も多く行くところで例の怪しい女性のたくさんに出るところで有名になっておりました。私は時々前を通るのでよく中に誰がいるのか、わかります) が、食事をするのに…

35. 昭和3年7月29日2 すみこへの返信2 石田一郎のこと。すみこは規矩士にマフラーを編むかも。イギリスの黒澤敬一兄がラジオで演奏しました。

②私もこちらに来ては何もかも忘れて勉強に全生命を落ち込んでいます(中の人注:全勢力をピアノに注いでいると言いたいのか?)ピアノを弾いている時など、日本と違ってその曲から聞こえてくるある精神に打たれて一人で涙を流すことがあります。この間もしば…

36. 昭和3年7月29日3 ベルリンには蝉がいない。「近所のレストランのピアノでリストを聴きました。驚きました」

⑮暑いので夏とは思いましょうが、蝉の声がないのは非常に物足りないです。その代わり盛んに秋の虫が鳴いていますから夏と秋とが一緒に来た感があります。一度で良いから大好きな蝉の声を聞きたいと思っておりますが、それが得られないのはまことに残念です。…

37. 昭和3年7月29日4 合唱の話題

「人が3人位集まれば必ず合唱をしますが、日本式のいやな声はありませんから、いつでも気持ちよくなります。一人が弾けば皆が相和する言うようにいつでも喧嘩等は起こらず、またぐでんぐでんに酔った者もなくして賑やかに楽しそうに毎日を送っているように思…

38.昭和3年7月29日5 「すべての信仰は偉大な神の声、音楽から与えられるものがまた非常に多いということも忘れてはならない」

⑯讃美歌でも歌いようによっては良くもなるし悪くもなるから、日本にもこの位の良いものがあったならばどれだけ多くの人が好きになったろうと考えられます。日本式にあんないやな声でしかも無理に有難たがらせて信仰に引き入れるようにするのは私でも本当に嫌…

44.昭和3年8月12日2 規矩士の芸術論1

規矩士芸術論爆裂です。かなり専門的な話にもなっています。わかりにくい話ですが、一気に翻刻します。 ◎クロイツァー先生は大体クラシックを基礎にしています。もちろんショパンはお得意ですが、曲想及びペダリング、フレージングはクロイツァー先生のは全…

67.昭和3年9月9日7 「ベルリン国立歌劇場でワーグナーのニュルンベルクのマイスタージンガーを観劇しました。素晴らしくて感動しています。」

㉕昨9日、シーズンの皮切りとして、ウンターデンリンデンオーパーに行きました。6時半から11時半まで5時間にわたる大物、さすがワーグナーの作だけに最後まで息を凝らして聴きました。題して「マイスタージンガー」これはレコードでもご存じでしょうが、こち…

76.昭和3年9月24日2 ドイツのピアノ事情。マイスタージンガーのチケット?クロイツァー教授のトリオのチケット

〇御通信は全部落手。こちらのも全部着く由。まず安心。無理をせぬよう注意しておりますから、ご安心を。事件は当分様子を見ます。 〇景色の良い所は一度でも見せたいと思います。本当の音楽もせめて出来るならばと希望する程です。日本ではとても悲しいかな…

80.昭和3年10月3日3 オペラハウスでヴェルディの「運命の力」を見ました。

26.いよいよシーズンで、ますます賑やかです。外は寒いので震えますが、この辺りは一寸内地と違います。内地ならば気候の良い頃かそうですが、こちらは寒くなればなるほど良くなるのですから、だいぶ変わっています。 先日は第二回としてヴェルディのDie Ma…

81.昭和3年10月3日4 オペラハウスにて。ベルリンの国立歌劇場の様子を書きました。

27.でたらめでも誰も笑ってくれる人がありませんから、今度の時は誰か連れて行って故意で内地の訳本を読んでおいて説明してやります。ドイツ語で読んだつもりで。わからないところは都合よく作曲して説明しておきます。それでも先方はきっと感心するでしょ…

82.昭和3年10月3日5 フォイアマンとザウアーのリサイタルに出かける。フィルハーモニーにも出かける。(すみこが「早く帰ってきて!」と手紙を書いたようです。お返事www)

〇鎌倉の絵葉書は思い出深く懐かしく拝見いたしております。毎日慰められております。 〇同封の赤切符はフィルハーモニー、黄切符は地下鉄道のものです。 (中の人注:ベルリンフィルハーモニーのチケットはありましたが、黄色い地下鉄の切符は散逸してしま…

84.昭和3年10月13日2 東京音楽学校の校長が変わったこと。ピアノの一日の練習時間。

〇音楽雑誌にはベルリンの本当の様子がわからないので、さきにいって何かを知らせましょう。それまでに充分調べるつもりです。 新校長はどんな人か知りませんが、いずれ何か話してみる考えでいます。学校もますます良くなって嬉しいです。私が帰る時分にはき…

86.昭和3年10月13日4 演奏会に行くのに忙しい。「豊増昇くんと井口基成くんはどうしていますか?」

〇仲良しのお友達の事件、ちっとも心配はいりません。その御友達が自分の衣服のように身体から離れないならいざ知らず、そうでなければ何とでも独りで行くことが出来ます。そのお友達にわざわざ「行きます」と言う必要はありません。言ったことがいろいろの…

87.昭和3年10月13日5 ベルリンジングアカデミーのホール

28.ジングアカデミーとはやはり内地ならば日本青年館というようなところで、場所は私がしばしば行くオペラのすぐ前。丁度大学の裏にあたります。場所としては静かな良い所でしょう。ここには立派なパイプオルガンがあります。すべてこういう場所にはパイプ…

91.昭和3年10月13日9 同封されていたチケットの半券たち1(ザウアー、オルロフ、ベルリンフィル、バロコヴィッチ)

10月13日付けに同封されていたチケットの半券の数々。 ①1928年10月4日 フィルハーモニーホール エミール・フォン・ザウアー 曲目不明。 ですが、10月3日付けの手紙でこのコンサートのチケットのことが言及されていました。規矩士は 「黄色のはザウアー氏ピア…

92.昭和3年10月13日9 同封されていたチケットの半券たち2 (ボロフスキー、スレザーク、バロコヴィッチ)

①1928年10月13日午後8時開演 ベートーヴェンザール バッハとリストの夕べ ピアノ:アレクサンダー・ボロフスキー(1889-1968) Alexander Borovsky - Wikipedia (日本語のものはありません) こちらのCDの紹介にかなり詳しい経歴があります。 sakuraphon.net …

93.昭和3年10月29日1『すみ君へ』クロイツァー先生のレコード、南京虫、演奏会三昧満足。日本で行った演奏旅行の話。など。

10月29日1 『すみ君へ』 「ポリドールレコード以外にアメリカのレコードでショパンのソナタがある由。何でもこれが一番良いとか申されました。何のレコードか先生も忘れたそうですが、どこかで探したらあるかも知れません。レコードと生とはだいぶ違います…

96.昭和3年10月29日4 同封されていたチケット類

10月29日の封筒に同封されていたチケット類。 これはコンサートチケットではなくて、どこかの入場券? Zooと書いてあるので、動物園かな? 「10月16日火曜日9時から15時まで」中等? ちょっとわからないですね。(ドイツ語苦手。得意な人にそのうち聞いてみ…

98.昭和3年11月5日2「すみ君へ」2「ベルリンはだいぶ寒い」「ラフマニノフのコンサートに行く予定。楽しみです!」

(続き) 4.ベルリンも寒くなりました。相変わらず元気です。例のチースの家です。他には理想の家もないので我慢しましょう。スチームが通りますから暖かです。 27.近頃は日もだいぶつまりました。4時半になると暗くなります。11月3日の天長節はベルリン…

101.昭和3年11月5日5 ベルリンフィルハーモニーの話1。演奏会場フィルハーモニーホールの話。

ベルリンで一番大きな音楽会場はフィルハーモニーで、ここで演奏される人は特別に技術の優れた人です。場所はポツダムプラッツ(中の人注:ポツダム広場)ジングアカデミーとはかなり離れています。幸いこのポツダムプラッツまで私の下宿のそばから地下鉄道…

102.昭和3年11月5日6 ベルリンフィルハーモニーの話2。フルトヴェングラー指揮ピアノはラフマニノフのコンサートはチケット代が高額!

「フィルハーモニーはベルリンの好楽家からはあまりその建物が古臭いとて良く言われませんが、私の聴いた所では決してそうではないと思いました。何程最下席になると随分横のうしろの方なので、「あれでは」とうなずかれますが、最下席の一つ上等から正面に…

103. 昭和3年11月5日7 ベルリンフィルハーモニーの話3。民衆音楽会。フィルハーモニーの前売りチケット事情。

かかる立派な会の(中の人注:ラフマニノフだのフルトヴェングラー指揮だのというビッグネームのコンサートのこと)以外に日曜の夜7時半から民衆音楽会があります。 これはやはりフィルハーモニーのメンバーですが、指揮者が普通の人なので、入場料もずっと…

104. 昭和3年11月5日8 ベルリンフィルハーモニーの話4。ブルーノ・ワルター。フィルハーモニーホールの話。

先日はブルーノ・ワルター氏コンダクター(中の人注:指揮者)のオーケストラを聴きましたが、(勿論日曜日の午前11時半から1時半までの総練習)この日のは合唱付きと言うので大変な人でした。総練習をする音楽会は大抵よろしいので、従って入場料も高くなっ…

105.昭和3年11月5日9.ベルリンフィルハーモニーの話5。「ベルリンフィルのティンパニは不思議なくらい上手なのです」「パイプオルガンは至る所にあるから珍しくないです。」

ティンパニ(普通鉄太鼓などと称しています)も2組あって(つまり4個並べられます)それが同時に叩かれますから全く気持ちが良く、時にはティンパニだけのソロがあったりして実に愉快です。内地ではよく高折氏(中の人注:高折宮次氏のこと。東京音楽学校ピ…

106.昭和3年11月5日10 ベルリンフィルハーモニーの話6.合唱付きのコンサートに行った。「某氏がヴァイオリンをやめたのももっともなことです。」

合唱付きのオーケストラには、かなり多くの人が出演しました。女声合唱にドームの子どもの合唱が加わり、近頃には珍しい面白いものでした。合唱人数は全体で250人位だったと思います。それに大勢のオーケストラが伴うのですから、その賑やかなこと、さしもの…

107.昭和3年11月5日11 ベルリンフィルハーモニーの話7。ゲネプロの時の服装とか。団員はクローン先生のような男性ばかりです。

「オーケストラの感じ、音の具合等、筆ではちょっと言えませんから、いずれ帰国次第に詳しく申し上げることにして、ここでは目に見えたことをお話しすることにします。 総練習の時はオーケストラの部員の服装は通常服で、これは上野と変わりません。先日の合…