177.昭和4年3月27日1 クロイツァー先生の演奏を聴いて1
3月27日
久しぶりにクロイツァー先生の独奏会を聴きました。
先生の奏法は全く独特でしょう。殊に音色の点では何人の追従を許しません。毎日お稽古をしていただいても、その妙音の出しかたはわかりません。コハンスキー先生、笈田氏、高折氏、いずれの方にのともまるで別物の感があります。弾き方はわかっても、その音が出てこないのです。柔らかい深い丸みのある音色、そして情熱のこもった表現法はさすが先生をして大家たらしめる所以があると全く敬服させられます。我々共のはまるで熱も何もない氷現法ですから、聴く者は風邪をひかされましょう。(中の人注:表現法を氷現法とわざと当て字にしている。)長時間等は勿論凍傷を起こすかもしれません。先生のは時間が長ければ長い程よく暖まって、身体の疲れ等もすっかり忘れてしまいます。余程左様に雲泥の違いが、そこに見いだされるのです。
すべてベルリンの音楽会では何を聴いても危ないものはありません。脱線しそうなのは内地の事で、こちらでは流石一流どころがやられますから、そのような心配は更になくなってそれだけでも素晴らしいことが知れます。
先生のプログラムはご承知の如くシューマンとショパンでした。シューマンではカーナバルが(中の人注:謝肉祭Op.9のこと)先生のお得意と見えて非常に面白く聴かれました。ショパンは先生には大変に良く合っているので、いずれも上出来。殊にb-mollソナタ(中の人注:ソナタ第2番Op. 35「葬送」のこと)のフィナーレ(中の人注:第4楽章のこと)は先生ほどに弾かれた人はありませんでした。ある一音の打ち込みなど、全く先生独特の奏法で、聴く者は感心させられます。力強い所と柔らかい、弱いところ等、巧みに弾かれます。ペダリングが鮮やかで殊にメロディがいつも独立して和音を支配するなど、なるほどと一々感服するばかりでした。
(中の人ツッコミ)
久しぶりの規矩士のコンサートの感想です。
規矩士が師事するクロイツァー先生のコンサートに出かけたようです。
残されているチケットからこのコンサートに出かけたと推測します。
残念ながら曲目はわかりません。
規矩士は書きます。
「柔らかい深い丸みのある音色、そして情熱のこもった表現法はさすが先生をして大家たらしめる所以があると全く敬服させられます。」
どうしたらあの音が出せるのか?規矩士の研究は続きます。
この日の曲目は
シューマン:謝肉祭Op.9
があったようです。他に何かを演奏されたかと推測しますが、現在のところわかりません。
こんな動画を発見したので貼ります。
こちらの動画でも「クロイツァーの何よりの特徴は、その独特の美しさを持った音」と評されています。
ちなみにこの動画の3分16秒あたりからの画像のクロイツァー先生の右隣は井口秋子氏(この方も規矩士の弟子でした)、右後ろの服と顎だけ写っているのが規矩士本人です。