117.昭和3年12月2日2 ラフマニノフとフルトヴェングラーとベルリンフィル!!

(いよいよラフマニノフフルトヴェングラーの感想ですよ!)

ラフマニノフ氏のコンチェルトd-mollは最近に内地でシャピロ氏が演奏されたようですが、自作自演のコンチェルトはとても話以上で、私もベルリンに来て初めてコンチェルトで感動したのはこの時でした。

フルトヴェングラー氏指揮のフィルハーモニーオーケストラ伴奏で、ソロも伴奏も少しの隙もなく実に見事に演奏されました。

この日はコンチェルトの他にもブラームスのシンフォニーがありましたが、これも素晴らしい出来でした。

入場券は約一か月前に買ったのですが、その時でも自分の希望する場所は売り切れで、やっと隅の方を1枚買うことが出来ました。当日は既に早くから満員となり、その人気は大したものでした。

私も最下等席故、11時半かんら始まるのには少なくも1時間前にその場所に行って席をとる必要上、その日は9時半に家を出ましたが、それでもかなりの先着者あり、さすがの熱心さにはいよいよ感心しました。もっともこの席は座席が決まっていませんから、どうしても早くから行って良い場所をとらねばなりません。

ドアが開いて中に駆け込む様は、内地と少しも変わらず、私もこの日は先を争って良い席を占領しました。

まるで喧嘩のように有様には驚きました。そうでしょう、遅くなると太い柱の陰で聴かなければなりませんから。

いつもこのようなオーケストラの日は、朝食もそこそこにして家を飛び出します。先日等はパンをふところにして出かけました。途中食べながら駆け足で地下鉄道の停車場にかけつけます。遅くなったらそれこそ大変ですから一生懸命です。

朝寝をしたらしい人は、大抵この場所でパンをかじっています。パンをかじるのもあながち不作法ではないと、この時に感じました。自分もパンをかじり度(漢字が読み取れない)なのでしたので。

席の占領はこの日だけで、あとは大抵自分の希望する席に行くことが出来ます。

この席は随分終わりの方でしたが、ラフマニノフ氏の演奏が素晴らしいので、実に良く聴かれました。

曲は内地で聴かれたと思いますから、別に申し上げませんが、全体の感じは一寸グリーグに似たところもあり、いまだにその美しさが耳についています。

聴衆はまるで水を打ったかの如く静まりました。フルトヴェングラー氏の指揮もよくラフマニノフ氏と同じように実に鮮やかなものでした。オーケストラ伴奏の良い所は申し上げるまでもありません。どうしてあんなに立派に演奏されるのか不思議なくらいでした。

日本の御方にもラジオで良いから、そのままのを聴かせたいと願ったことでしょう。自分だけがこうして独りで聴くのは全く惜しいように思えてなりませんでした。ベルリンでこのような立派な音楽を聴くことの出来るのは、本当に感謝すべきであります。

 

(中の人ツッコミ)

ラフマニノフのd-mollのコンチェルトとは何だろう?

これですね。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30

1909年作曲。このコンサートが1928年なのでたった19年前に作られた曲ということです。(オドロキ)

この曲は小カデンツァと大カデンツァと2種類のカデンツァが用意されていて、ピアニストが適宜選ぶことが出来ます。

このベルリンでのコンサートは、ラフマニノフはどちらを弾いたのでしょうか?

ラフマニノフのピアノ協奏曲以外に、ブラームス交響曲も演奏されたようです。

ブラームス交響曲も複数あるので、この記述からは何番を演奏されたかはわかりません。フルトヴェングラー指揮のブラームスですか。(スゴイナー)

素晴らしい演奏で規矩士も大満足。感動の一日となりました。

おそらく2年のベルリン滞在の最大のイベントの一つだったでしょう。

しかし後に書いた「ベルリン思い出の記」にこのコンサートのことは書いていません。そしてすみこもこのコンサートの手紙のことは周りに語っていないようです。何故?

思い当たるのは、フルトヴェングラーの戦後の立ち位置です。ベルリンフィル常任指揮者だったフルトヴェングラーは、立場上ナチスドイツのプロパガンダに利用されました。このことが戦後、彼の立ち位置を悪くしてしまった。

思い出の記などにこの記述がないのは、そこの忖度があるのかもしれません。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番Op.30

ピアノ:亀井 聖矢

オーケストラ:タクティカートオーケストラ

www.youtube.com

最近の若い音楽家たちの動画を貼ります。ピアノもオーケストラも若い日本人での演奏です。

規矩士先生、100年後の日本ではこういう演奏も出来るようになりましたよ。それも規矩士や、もっと上の先輩である例えば橘糸重先生、規矩士の弟子だった井口基成、井口秋子といった先人の奮闘のおかげですね。

そしてこの素晴らしかったベルリンでのコンサートを規矩士は「日本のみんなに聴かせたかった」と書いています。ラジオ中継はまだ難しかったのでしょうか?

現代はこんなものがあります。ベルリンフィルは動画配信に熱心で、有料とはいえ動画配信サイトがあります。中の人の周りでは「ベルリンに行くより安いから」とこのサブスクに入っている人多し。

規矩士が見たらビックリですね。

www.digitalconcerthall.com

 

(独り言)

ラフマニノフのピアノで、フルトヴェングラーの指揮で、ベルリンフィルラフマニノフの3番ですって?私も是非とも聴きたいぞ!

フルトヴェングラーというとどうしてもワーグナーとかブラームスといったドイツもののイメージが強いので、ラフマニノフの3番というのが意外です。